旧 太極拳よもやま話

赤壁懐古

2013年10月28日

これは師馬岳梁が大好きだった宋の時代の文学家である蘇拭の有名な詩であります。旧正月一日の朝は必ずこの詩を一人で朗読します。師が一番悲しんでいたのがおそらく、どの時代の英雄も時に流されていくことだと認識しておりますね。どのような英雄も年を取れば自分の一つの時代が終了することは自然界の規律のようなものです。

大江东去,浪淘尽、千古风流人物。故垒西边,人道是:三国周郎赤壁。
乱石穿空,惊涛拍岸、卷起千堆雪。江山如画、一时多少豪杰。

日本にも漢文の強い方が大勢いますが、ここでの「大江」とは一般的には揚子江のことですね。どのような強い人間、英雄、文学者、武道家も数千年の間、「大江」の波の流れで連れていかれましたよ。馬師も沈剛も、すべての人間が浪淘尽に免れることはありません。誰もが青春時代があって、力も漲り、誰もが若い頃には綺麗な顔をしていたはずです。年を取るとなかなか美貌を保つことが出来ないでしょうね。このような自然界の規律に勝てないことで数千年に中にどれ程多くの英雄が落胆されたのでしょうか。

そして、太極門の者はもう一つのリスクを背負うことになりますが、体力の衰えは間違いなくすべての人間に襲い掛かります。私より10数年年上の同門はかつて、私よりも若干背が高かったのですが、現在では自分よりも遥かに背が低くなりましたね。勿論、これからの私も背が伸びることもないでしょうね。私達太極拳修練者は「太極勁」という独特なパワーを自分の体力が完全に衰える前に習得出来るとこれ以上幸せなことがないですが、勿論これで人間としての老化もかなりコントロール出来ますし、若者との推手でも、僅かな力で応対出来ます。実際、師馬岳梁は晩年でも、多くの若者の挑戦を跳ね返したり、弟子らの推手指導もほぼ自ら行うこともします。これは結果的に「太極勁」を習得し、自信があるから出来たことですね。今の自分でしたら本当に自信がないです。もっともっと太極拳修練を精一杯やらねばならぬものですね。

先般、上海で初弟子に恵まれました。拝師礼が終了した後自分はかつての師馬岳梁と師呉英華の遺影の前で暫く佇み、感慨千万でしたね。横にいた馬江麟大師は自分とは幼い頃からずっと一緒に練習をしてきた仲であり、自分がいかにして馬岳梁、呉英華の両師に従い日々猛勉強していたことも、馬江麟大師は誰よりもよく分かっていますね。彼も両師の遺影の前に佇んでこう言いました。「パパ、ママ、剛ちゃんが弟子をとったよ!!!」その時、自分も馬江麟大師も込み上げてくるものがございました。千古风流人物の中の二人である呉英華、馬岳梁ですが、今はこのようにして遺影とお墓しか残っていません。おそらく生きている間も日本での知名度はさほど高くないことはよく分かっています。自分は日本語学校の時に知り合った競技太極拳の先生に両師のことを伺っていたら、「この二人は誰でしょうか」と聞かれましたね。少なくとも当時の日本ではまだ伝統太極拳といったら楊式が殆どという時代でしたのでこれは致し方がないと思いますね。でも、今日において皆様がよくご存知の両師も物故された人間でございます。

大江东去,浪淘尽、千古风流人物……。拝師礼が終了した後に両師の遺影の前で黙祷をしている間、何となく師馬岳梁の綺麗な北京語であの「赤壁懐古」を読んでいる声が聞えてきたような気がしました・・・。「赤壁懐古」はいつも自分の太極人生を駆り立てているようなものですね。

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