私の青春時代当たりの中国では改革開放のはじまりも手伝って武侠小説はかなり流行っていましたね。そして、太極拳は少林拳法の天敵であることで、若者が推手の練習をしていることが各公園で溢れていました。そして、私や馬江麟などが現れるとおタバコは当然のように自分のポケットから出す必要がありませんね。(沈剛は9年前までヘビースモーカーだった)でも、我々がいないところでは決まった話題になってしまいます。呉式は何なには絶対にお教えしないでしょうね。とか・・・。一番話題に挙げられていたのが呉式太極拳の散手である「四路蘭採花」であります。そして、「八門五歩」や「呉式太極剣連環剣」、気功の「二十四功法」なども囁かれていましたね。そして、呉式も家で教えていることが違うとか、家では太極拳の「方架」を教えているとか、私にも何度ものお願いがあって「方架」を教えてくれと、家にないものは当然教えられないから拒否すると、皆さんは、あの人もやはり秘伝は教えてくれませんよね、と。更に噂を立てます。当時の上海では「四路蘭採花」はまるで金庸小説の中の「九陰真経」のように神秘的で、その秘訣が頂けると忽ち、世界一の武道家になれるようで、若い人々を発狂させていました。
では、各太極拳の家では本当に秘訣を自分の子供にしか教えないのでしょうか。
それは違うと思いますね。教えられる人間でしたら先生達は教えますよ。お金ですか。かかるところとかからないところがあります。ご存じ、家元と言っても太極拳だけで生計を立てるところもあれば、普通に仕事をして、余暇を利用して人々に太極拳を教えている家元の者もおります。本当に申し訳ないと思っていますが、私は五つの太極拳流派しか知らない狭い人間でこの位の話ししか出来ません。この中国でわりっと有名な五つの流派の中では現在、太極拳学校を経営している流派もあれば、家元で太極拳社を立ち上げて弟子らがそれぞれ、弟子を取る方法もあります。呉式太極拳の上海鑑泉社は経営がかなり下手であることで有名ですね。それもそうですが、現在の掌門である叔父馬海龍は定年退職をして、夫婦でわりっと豊かな生活をしていて、子供達は太極拳と関係ない商売をしていて、特に太極拳で生きていくわけでもありません。そして、自分たちの為に太極拳を修練し続けていますね。当然のように弟子もそんなにはとっていないですが、でも、与えられた太極拳をきちんとこなしていて、体が太極拳に合ってきた人に対しては惜しみなくお教えしていますね。昔の馬岳梁先生と呉英華先生は中国上海市の政治協相委員会のメンバーで国からお給料が出ていました為、私達に対して色々お教えしても基本的には無料でした。私達は何とか小遣いという名目で何とかお金を差し上げたくてもなかなか取ってくれませんでしたね。現在の馬先生の子供たちもはっきり言ってあまり高い料金を頂いていません。馬江麟師の言葉では、太極拳を教えるかどうかは縁ですね、と。私とかなり近い考えです。
でも、弟子入りしないと何も教えられないこともわかります。普通に軽い気持ちで練習をして、習得したところで急に辞めて、他所で太極拳教室を開いてしまうこともかなり多いようですね。弟子入りをして一月いくらの固定料金を貰って、本格的に長期間に渡って伝授することで師匠の生計も立てられますね。但し、弟子入りをしたということで秘伝を教えるとは限らないですが、秘伝は秘伝なりに大変ですよ。秘伝は適当に学んだにしても、実際の実戦で何も役に立ちません。率直に申すと秘伝はそれなりの段階を踏んだ基礎がすべてです。日本社会で飛び級の報告や相談は出来ないそうですね。必ず直の上司でないといけないそうですが、武道もそうですよ。基礎も出来ていない人間で「四路蘭採花」なんかはお教え出来ません。太極拳も練習しない人間で本当は推手の練習も出来ないですね。「定歩推手」も重心が揺れているのに、「活歩推手」は無理でしょうよ。
そして、私は太極拳や気功を教えた以上は色々と責任が生じてくると確信しています。少しでも難しい内容を教えると、この学生は筋肉痛がしないでしょうか。気功を教えてしまうと常に偏差のことで頭にいっぱいです。時に「八門五歩」などになると偏差し易い為、教えるに当たっては私達もかなりリスクを背負っていますよ。自分たちが色々と難しい経験をしているから、何とか少しでも皆様に沢山のものを教えていきたいことは私達の気持ちですが、皆様のご協力があって、はじめてすんなりと上手くいきます。これは、教える側と学ぶ側の歩み寄りになりますね。
この世のすべての稼業が、歩み寄りをもって行われば、自然に上手くいくことになると思います。
何故、秘伝を教えたくないのでしょうか
2014年3月5日