呉式太極拳は、五大流派のひとつとして数えられる名流であり、かつて中国最強との呼び声高かった馬岳梁や、実戦さながらの試合で相手を圧倒し、その名声を高めた「呉陳比武」で知られる呉公儀などの高弟を多く輩出しています。
事実上の創始者である呉鑑泉は楊露禅に師事し、楊式の秘伝を存分に学んだ上で、さらに道教太極拳の要素をこれに融合し、「柔の極め」ともいうべき風格を完成させました。普段の練習で行う套路や推手は、実に柔らかく、ユックリとした動きの中で勁力を培っていきます。
また、その成立が1900年代初期と比較的新しいことから、創始の頃より、文献や写真が比較的豊富に残っており、套路(動作の型をひとまとめにしたもの)や推手の種類・変化、併修する気功などが豊富に残されています。
さらに、「世界で最も売り上げのある作家」として知られる金庸は、呉公藻の拝師弟子であり、彼の著した魅力的な武侠小説群により、中国人の心象風景の多くには、「太極拳=呉式太極拳」として、中国武術の戦いのイメージがあらかじめ刷り込まれている、と言っても過言ではありません。
これだけの魅力的な要素を持つ呉式太極拳でありますが、日本では、中国共産党および文化大革命の影響を大きく受けた制定太極拳から太極拳の一般的な受容が始まったこともあり、残念ながらその存在・内容のほとんどが伝えられないまま、今日に至っています。
当呉式太極拳研究会は、馬岳梁・呉英華の両老師に師事すること20余年、そして在日本歴およそ30年の沈剛老師による、「日本語による伝統呉式太極拳の伝授・研修の場」として2013年より活動しています。何重ものベールに包まれてきた伝統太極拳の真の姿を学ぶ場所として、皆様と共に研鑽を深めていきたいと考えております。